宇宙には銀河が集まった“銀河団”や、その銀河団がさらに集まった“超銀河団”など、私たちの想像を超える巨大な構造が存在します。なかでもとりわけ注目を集めるのが「グレートウォール(Great Wall)」と呼ばれる超巨大構造です。グレートウォールは複数見つかっており、例えば「CfA2グレートウォール」「スローン・グレートウォール」「ヘラクレス–コロナ・ボレアリス・グレートウォール」などが知られています。これらは“ウォール”という名が示すように、銀河が壁のように連なった広大な領域を指しています。
本記事では、宇宙の“端”に存在するとも言われるこのグレートウォールに着目し、その概要や発見の経緯、私たちがそこから得られる知見についてご紹介します。
1. グレートウォールとは何か?
グレートウォールは、膨大な数の銀河が集合してできた「壁状の構造」を指します。あまりにも大きいため、観測した人々が「まるで宇宙に巨大な壁があるかのようだ」と驚いたことから、この名前がつけられました。実際、その大きさは数億光年~数十億光年に及ぶものもあります。
• CfA2グレートウォール
1989年にジョン・ハクラ(John Huchra)とマーガレット・ゲラー(Margaret Geller)らによって発見された構造で、長さ約5億光年とされています。初めて見つかった巨大構造ということで、天文学者だけでなく世界中の科学ファンを驚かせました。
• スローン・グレートウォール(Sloan Great Wall)
2003年にスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)のデータから発見されました。長さ約13億光年と、CfA2グレートウォールを上回る規模であることが報告され、一躍注目を集めました。
• ヘラクレス–コロナ・ボレアリス・グレートウォール(Hercules–Corona Borealis Great Wall)
2013年ごろにガンマ線バースト(GRB)の観測データ分析から報告され、推定サイズは100億光年にもおよぶとされます。現在知られている構造の中では最大級の候補として、宇宙論の見地から非常に大きなインパクトを与えています。
2. “宇宙の端”という表現について
よく「宇宙の端にある」と表現されますが、実際には宇宙に“壁”や“端”があるわけではありません。宇宙は膨張し続けており、私たちが観測できる範囲(可視宇宙)にも限界があります。グレートウォールは、その現在観測可能な範囲内で最大級のスケールを持つ構造として、“端”という比喩的表現が用いられることがあります。もちろん、それが本当に「宇宙の果て」ではありませんが、私たちの理論と観測が捉えられる“もっとも遠い大規模構造のひとつ”であることは間違いありません。
3. グレートウォールはどのように観測されるのか?
グレートウォールのような大規模構造を調べるには、大規模な観測プロジェクトと膨大なデータ解析が欠かせません。代表的な方法として、以下のような手法が用いられます。
1. 銀河の赤方偏移(レッドシフト)の測定
宇宙が膨張しているため、遠くの銀河からの光は波長が伸びて赤っぽく見えます。これを赤方偏移といい、数値として測定することで銀河までの距離を推定します。多数の銀河の位置・距離データを集めると、立体的なマッピングが可能になります。
2. 電波観測やガンマ線バーストの分布解析
ガンマ線バースト(GRB)は超新星爆発などを超えるエネルギーを放出する現象で、非常に遠くの宇宙でも観測できます。GRBがどの方向にどれくらい発生しているかを調べることで、遠方銀河の分布を統計的に推定し、大規模構造の有無を探ります。
3. 大型観測プロジェクトのデータ(例:スローン・デジタル・スカイサーベイ)
SDSSのように、広大な天域を網羅的に観測し、天体の位置やスペクトル情報を大量に集めるプロジェクトのデータは、大規模構造の研究にとって宝の山です。こうしたオープンデータの存在が、近年大規模な宇宙構造の発見を促しています。
4. グレートウォールがもたらす宇宙論へのインパクト
グレートウォールのような超巨大構造の存在は、私たちの宇宙観を大きく変えました。ビッグバン理論やダークマター、ダークエネルギーといった宇宙論的モデルでは、宇宙の大規模構造は揺らぎの成長によって生まれたと考えられます。しかし、発見される構造があまりにも巨大なため、「標準的な理論モデルでは説明しきれないのでは?」という疑問や議論を呼び起こすきっかけにもなっています。
特にヘラクレス–コロナ・ボレアリス・グレートウォールの報告サイズは、従来の理論モデルで想定されるスケールを超えている可能性があるため、さらなる高精度観測や新たな理論的アプローチが必要とされています。宇宙論の根幹にかかわる問題であり、今後の研究によって私たちの宇宙理解がより深まっていくでしょう。
5. 今後の展望
宇宙の大規模構造は、観測技術の進歩とともに今後さらに明らかになっていくと期待されています。特に、次世代の大型望遠鏡(例:ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が既に稼働中、さらには次世代地上望遠鏡など)の観測データが集まるにつれて、グレートウォールの正確な構造だけでなく、その形成過程や周辺領域との相互作用についても一層理解が深まるでしょう。
また、ダークエネルギーやダークマターの分布を解き明かす鍵として、グレートウォールのような超巨大構造の観測や理論的研究は、宇宙論の最前線を担う重要テーマとなり続けるはずです。
まとめ
グレートウォールは、銀河が壁のように連なって形成された超巨大構造で、私たちの宇宙観に大きなインパクトを与えています。宇宙の“端”を思わせるほどスケールが大きいことから、しばしばロマンをかき立てる対象として取り上げられますが、実際には現在観測できる範囲で最大級の構造であるという意味合いが強いです。この壮大な構造を理解しようとする試みは、ビッグバン理論やダークマター分布、ダークエネルギーの影響など、宇宙の根本的な謎解きにもつながっています。今後の観測技術と理論モデルの進展により、グレートウォールの正体がさらに明らかにされる日を楽しみにしていきましょう。
